はち:はんたー×ぱにっく!?(前)






「噂を聞いてあの学校に潜入していて良かったよ」
そう言うと、声の主はメガネを神経質そうに二度三度と押し上げた。
「安東!」
タナカが驚きの声を上げると、安東はキッとタナカを睨みつけた。それは、今までの安東の持っていた眼差しとは、似ても似つかぬものだった。
「その名を呼ぶのはやめてくれないか。僕のような人間が目的のためとは言え、あんな奴の振りをしていたかと思うとそれだけで虫唾が走る。あんな、弱い人間の!」
吐き捨てるように、安東だった人物は言った。そして、口の端で笑うと、
「僕の名を聞けることを光栄に思うがいい、吸血鬼どもよ。僕の正式な名は、アンディ・N・ヘルシング。ヘルシングの血を引く者だ!」
そう言うと、安東だった人物は徐にメガネを外した。茶色がかった瞳が怪しく光る。
「賞賛の声を浴びせろ」とでも言うように両手を大きく広げるが、タナカ達は何も言わない。
ぽかーんと呆けた顔でアンディを見つめている。
「どうした。あの英雄ヘルシング教授の名を聞いて恐れ慄いたか?君たちにとっては死神にも等しい人物の名だ。恐れるのも無理はないがな。そして、ケビン・W・ヘルシング!」
びしっと、アンディは人差し指をケビンの方に向かって突きつける。
「君が正統な血筋の者であるのならば、何故こいつらを狩らない!?」
視線を交錯させるアンディとケビン。
二人の間にしばし沈黙が流れる。
「狩るも狩らないも俺の自由だろ?……つーかさ、あんた誰?」
首を傾げて問いかけるケビンに、アンディが叫んだ。
「今名乗っただろうが!!……君のような者が正統な血筋だなんて、僕は認めない!」
「認めないって言われてもなあ。今更血は入れ替えらんねえし。遺伝子も書き換えらんねえだろ?」
「下等な吸血鬼どもと親しく付き合うような人間は、ヘルシング一族には不必要だ!」
「不必要だって言われてもねえ。ところで、あんたハンターナンバーいくつ?」
「A002だ」
「ふうん。知らないのも当然か。俺、Sランクの奴しか覚えてないもん。へえ、Aランク如きでもヘルシングを名乗れるんだ」
ケビンは鼻で笑う。まるで相手を激昂させることを楽しんでいるかのような表情だ。
「僕は他のAランクとは違う!きちんとヘルシングの血を引いている!」
「じゃあ分家筋だろ?本家の人間なら知らないはずはない。ヘルシングの名も随分と安くなったもんだな」
ケビンはそれまでのへらへらとした表情を一変させて言った。
「何だと!?」
「ヘルシングは選ばれた有能なハンターだけが名乗ることを許された名だ。お前のような人間が名乗るのは、ヘルシング一族の恥だな」
「黙れ!僕は協会から認められている!!そして、異端のお前を狩れとの命を受けてきたんだ」
ヒステリックにアンディは叫んだ。
それを聞いたケビンは大きなため息を一つついた。
「叔父さんも馬鹿な真似ばかりする。またここで一人、命を落とすわけか」
その言葉に、アンディは口の端を歪ませて笑った。
「君のSランクは所詮親の七光りだろ?」
その一言に、ケビンの目の色が変わる。
「七光りかどうか、試してみたらいいじゃねえか」
「ああ、いいだろう。四兄弟(フォーブラザーズ)!!」
アンディが叫ぶと、彼の背後から先ほどヒロシを襲った男達が現れた。
相変わらず、全員が一糸乱れぬ同じ動きをしている。
「手下か……。ならこっちも、行け!ヒロシ!!」
ケビンに顎で促され、突然名前を呼ばれたヒロシは素っ頓狂な声をあげた。
「はあああ!?俺がいつからお前の手下になったよ!?」
「ごちゃごちゃうるせえな。嫌なら今すぐ俺が狩ってやるが?」
ぎろりとケビンに睨まれては二の句が告げない。ヒロシは呻いた。
「あのー。ミカ、関係無いならタナカさんと一緒に帰ってもいいですか?」
二人の緊迫したやりとりを無視するかのように、ミカがのんびりとした
声で割って入ってきた。
「あ?お前は帰ってもいいけど、シュウイチは置いてけよ。どうせヒロシじゃすぐ負けるだろうし」
「だったら最初からシュウイチ使えよ!お前も帰るとか言ってんな!」
ヒロシに喚かれ、ミカはむっとした顔になる。
「だってハンターとか、さっきっからこの人たち話してること分からないんですもの。何なんですか?」
ミカはタナカに視線を送る。だが、先に口を開いたのはヒロシだった。
「だから、ハンターってのはだな……」
瞬間、ミカは物凄い形相でヒロシを睨みつけた。
「あーあれだ。やっぱりこういうのはシュウイチが説明するべきだな、うん」
ヒロシは視線を泳がせながら言う。
タナカは訳が分からず首を傾げるが、
「お願いします」
というミカの甘い声と微笑に、説明を始めた。

「ええと、ハンターっていうのは、吸血鬼ハンターのことで、ハンターは必ず協会に属しているんだ。それで、下からC、B、Aと分けられているんだけど、最もランクが高いのはSなんだ。Sランクを与えられている人間は片手で足りるだけしかいないと言われている。実際の数がどの程度かは分からないけれど、それだけSランクを与えられている人間は稀だと言っていい。で、そのSランクの一人がケビン」
タナカがケビンを指差すと、ミカは目を丸くさせて驚いた。
「えええ!?そんなに凄い人だったんですか?ただのサドな人だと思ってました」
正直すぎるミカの言葉に、タナカは苦笑を浮かべる。
「まあ、サドであることに間違いはないんだけど」
「実際SランクのSはスペシャルじゃなくてサドだと俺は思ってるけどな。あいつらみんな変態すぎるって!」
拳を硬く握り締めてヒロシは言う。よっぽどハンターに酷い目に合わされたことがあるのだろう。
「で、ハンターの中でもヘルシングを名乗ることを許されるのは、正統な血筋の者と有能なハンターとして認められた者だけなんだ。ケビンは、前に協会のトップに立っていた人の息子で、そして有能なハンターとして認められている。これが、ケビンがヘルシングを名乗っている理由だ。でも、あのアンディは……」
言葉を濁したタナカの後を、ヒロシが続ける。
「Aランクの人間がヘルシングを名乗るってのは無いことも無いが、あいつが分家の人間であることを考えるとな。よっぽどハンターとして有能か、それとも……」
「権力争いに利用されているだけだな」
ふんっと鼻で笑うとケビンは言った。
「大方、俺のことを快く思っていない何人かの親戚連中に利用されているだけだろ。自分か、自分の息子を頂点に立たせたい人間たちによる愚行だ」
ケビンは大きく顔を歪ませる。
そこへ、苛立たしげなアンディの声が投げかけられた。
「いつまで待たせる気だ!」
その声に振り返ったケビンは、さして悪びれた様子もなく、
「悪い悪い。作戦会議中だ。もう終わった」
と、不敵な笑みを浮かべてみせる。
「勝手に終わらせんな!つか結局俺が戦うのかよ!?」
「仕方ない。付き合うよ」
ヒロシはその言葉に喚き、タナカはお手上げのポーズを取ってみせた。
「タナカさんが残るなら、ミカも残ります!ほら、さっさと戦いに行きなさいよ!」
ミカは手でしっしと追い払うようなしぐさをした。
「ちくしょー!こうなったらあいつら全員ぶっ飛ばしてやるーー!!」
あまりの冷たい仕打ちに半分泣きながら、ヒロシは四兄弟に向かって行ったのだった。






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2005年5月27日 up

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