なな:倉庫に集いし者達






「ここか……」
古びた倉庫の前に立ったタナカは、ごくりと唾を飲み込んだ。
扉を開くのを躊躇うタナカに、後方から勢い良くケビンの蹴りが入った。
勢い良く前につんのめるタナカ。
「何すんだよ!!」
「もたもたしてんじゃねえよ!」
噛み付くタナカだったが、キレたケビンの一言にすごすごと大人しくなる。
口の中で小さく何事かを呟きながら、倉庫の扉に手をかける。
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
ケビンの声に思わず姿勢を正し、倉庫の扉を開けた。
ギギーっと軋んだ音が辺りに響き渡った。
扉を開けたタナカの目にまず飛び込んできたのは、縄で縛られたミカの姿だった。
ミカはタナカの姿に気づくと表情を輝かせる。
「……タナカさん!!」
目の中にハートが乱舞していそうである。
駆け寄ろうとしたタナカは、隣にもう一人そんな表情を浮かべている人物がいることに気が付き足を止めた。同じように縄で縛られた茶色の髪の……。
「……シュウイチ!!」
「ヒロシぃぃ〜?」
思わずタナカは素っ頓狂な声をあげてしまう。ミカを連れ去ったはずのヒロシが一体何故?
その声に、後方からケビンがひょっこりと顔を出した。
縛られているヒロシを見ると、
「何おまえ縛られちゃってんの?そういう趣味?」
ケビンがそう言ってニヤリと笑うのと、ヒロシが叫んだのは同時だった。
「この鬼!悪魔!!」
突然罵声を浴びせられたケビンは眉間に皺を寄せる。
「はあ?おまえ何言ってんの?鬼はおまえだろ?」
呆れるケビン。
「うるせえ!俺のこと売りやがったくせに!!こんの裏切り者!!」
じたばたと足を動かしながらなおもヒロシは叫ぶ。
タナカとケビンは訳が分からずに顔を見合わせる。
「裏切るも何も、おまえとは最初から敵同士だろうが」
「うるさいうるさいうるさーーーーい!!」
「落ち着けよヒロシ。いくらケビンが変態サドハンターだとしても、自分の狙っていた獲物を誰かに渡すなんて、そんなことあると思うか?」
「けど、だって、現に俺は酷い目にあったんだぜ!?」
訴えるような目でヒロシはタナカを見つめる。
「シュウイチが俺のことを変態だと思っている件については後で聞くとして、一体どうしてそんな目にあったのか言ってみろよ」
満面の笑みを浮かべてケビンは言った。
その一言に、タナカの肩がびくりと震える。一歩、ケビンの傍から離れようとしたタナカの腕をがっちりとケビンが掴んでいた。
苦笑を浮かべるタナカ。ケビンはそれに笑顔で答える。
しかし、すぐに表情を真剣なものへと変えた。顎でヒロシを促す。 ヒロシは、渋々といった態で話し出した。
「突然、そこの扉が開いたんだよ。それで、俺はてっきりおまえらだと思って……」

× × × × × 

勢い良く倉庫の扉が開かれた。
「ふはははは、待っていたぞシュウイチ!!」
「タナカさん……!!」
タナカが現れたのだと思ったヒロシとミカは、声を大にする。
しかしそこに立っていたのはタナカでもケビンでも無い、四人の男だった。
男達は全員が黒いスーツに身を包んでおり、顔には黒いサングラス。髪の毛は皆が七三分けにしており、全員が同じ人物のように思えた。
タナカでは無いことに気づいたミカとヒロシは、一気に顔を曇らせる。
「んだよ、シュウイチじゃねえのかよ」
「あーあ。今、ミカ最高の笑顔を作ったって言うのに。最悪。あんた達に見せても仕方ないわよ」
ミカはぷいっとそっぽを向く。タナカでは無いことによっぽどがっかりしたのだろう。
それを横で見ていたヒロシは、何だかなあと肩を竦めて見せた。
「で、あんた達ここに何か用?」
男達は無言のまま、ヒロシの方に歩を進める。少しのずれも無く、完璧に全員が同じ動きをした。
嫌な予感がしたヒロシは、庇う様にしてミカの前に立つ。
男達はまた一歩、同じ動きで歩を進めた。
その正確さに、ヒロシは背筋が冷たくなるのを感じた。
(何なんだこいつらは……!!)
「この人たち、何……?」
ミカも彼らの動きに気味の悪さを感じたのか、ヒロシの後ろで震えるような声で小さく呟く。
「下がってろ」
ヒロシは後ろを振り返らずに言った。
その声音から真剣な様子を察したミカは、大人しく後ろに下がる。
「狼型吸血鬼(ウルフタイプバンパイア)」
「ナンバー0543」
「ムラセ ヒロシ」
「ターゲット確認」
機械的な口調で、男達は順に口を開いた。
そして、
「クロス」
と言うと、胸元から十字架を取り出し、ヒロシに向かって翳した。
四つの十字架で一気に攻められ、ヒロシの額からは脂汗が流れる。
目を瞑ろうにも、体が硬直して動かない。
ミカの腕を縛ってしまったことを、この時ヒロシは後悔した。
そして、次の瞬間。

ぼわわわんっ

ヒロシの身体は狼へと変化していた。
そこへ四人の男達が一斉に襲いかかる。
「うわーやめろーー!!」
ヒロシが叫ぶが、ミカは成すすべも無く立ち尽くしていた。
「捕獲」
「捕獲」
「捕獲」
「捕獲」
四人の男達は口々にそう言うと、ヒロシから一歩離れた。
そこには、縄で縛られた狼の姿があった。
それを見た男達は満足げに笑う。寸分の狂いも無く、四人とも同じ表情だった。
そして、今度は胸元から携帯電話を取り出した。
「報告」
一番右端の男がそう言って、隣の男に携帯電話を手渡した。
「了解。報告」
二番目の男はそう言って、隣の男に携帯電話を手渡した。
「了解、了解。報告」
三番目の男はそう言って、隣の男に携帯電話を手渡した。
「了解、了解、了解。報告」
四番目の男はそう言うと、携帯電話の通話ボタンを押した。
「狼型吸血鬼、ナンバー0543、ムラセ ヒロシ、捕獲」
そう電話に向かって告げると、携帯電話を右隣の男に手渡した。
それは同じ経路を辿って一番右端の男の手に戻った。
男は胸ポケットに携帯電話をしまう。
「任務終了」
一番右端の男がそう告げると、男達は機械的な動きで倉庫の出入り口に向かって行った。
ミカはただ呆然と、四人の男達の去って行く姿を見つめていた。

× × × × × 

「……とまあ。こういうわけだ」
ヒロシが話し終えるのと同時に、ケビンが口を開く。
「弱っ!おまえめちゃくちゃ弱っ!!」
「う、うるせえ!おまえに十字架を四つも翳された吸血鬼の気持ちが分かるか!?」
ケビンの言葉に、ヒロシは涙目になりながら訴えった。分かってくれるよな、とタナカに視線を向ける。
「まあまあ、落ち着けって」
タナカは優しくヒロシの肩を叩いてやった。
ミカはそれを羨ましそうに見ている。
ぽつりと、
「私も怖かったなあ」
と、呟く。
それに苦笑を向けてから、
「でも、一体誰がヒロシを……?何か得があるようには思えないけど」
さらりと酷いことを言うタナカである。
「……手口から言って、ハンター協会の連中だな」
ケビンが呟いたのと同時に、どこからか声がした。
「その通ーーーーり!!」
その声は、倉庫の中に響き渡った。
声のする方を勢い良く振り返ったタナカ達の目に映ったのは、思いも寄らない人物の姿だった。






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2005年4月10日 up

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