年越し×ぱにっく!?





大晦日の午後。
長い髪を揺らしながら、今にもスキップをしそうなほど軽い足取りで歩いている少女が一人。ミカだ。
眉の上で真っ直ぐに切られた前髪。タータンチェックのヘッドドレスと、同色のケープを羽織っている。ケープの下からは、これでもかというほど膨らんだ、レースがふんだんにあしらわれた黒いスカートが覗いている。
手には、大きな風呂敷包みを抱えていた。
ミカは、とある家の前に立つと、自分の服装やメイクがおかしくないかを鏡で念入りに確認すると、ベルを鳴らした。
扉が開く音が聞こえた瞬間、自分に出来る限りの最高の微笑を浮かべる。
「ターナーカーさん!紅白一緒に……」
「見ませんか?」という可愛らしいミカの問いかけは、言葉にならなかった。そこにあったはずの最高の微笑も、玄関から出てきた相手によって、最高のむかつき顔に変わる。
「……今の笑顔、返してよ」
仏頂面でそういうミカに、玄関から出てきた相手――ヒロシは、眉間に皺を寄せた。
「はあ!?勝手にお前が浮かべたんだろ!?つか、何の用だよ」
「何の用!?タナカさん家に来てるんだから、タナカさんに用があるに決まってるでしょ!あんたがいるのがおかしいんじゃないの!」
ミカに噛み付かれ、ヒロシは逃げ腰になりながらも言い返す。
「俺だって好きでいるわけじゃねえよっ。留守番してんだよ……!」
「留守番……?え?タナカさんいないの?」
「ちょっとケビンの見送りに。夕方までには帰ってくるよ」
「あのサドな人、どこかに行くの?」
サドな人、というミカの言い方に苦笑を浮かべながらも、ヒロシは答えた。
「実家に帰るんだと。色々と、親戚に挨拶もあるって、嬉しそうに笑ってたけどな」
「ふうん」
そう頷きながら、ミカの脳裏には、とある人物の顔が浮かんだ。神経質そうな、あのハンターの。
「……楽しんでくるんでしょうね」
「だろうなあ。色々な意味で、な」
二人は、溜息をつくと一斉に遠くを見つめた。
きっと、とても言葉では言い尽くせないほどの地獄絵図が広がっているに違いない。その場に居合わせた人間は、一生忘れられない光景になるだろう。
「何と!」
「ケビン殿は実家に帰られたと!」
「これはとても良いことだ」
「来年はきっと良い年になるだろう」
突然、聞き覚えのある声が聞こえてきて、二人は慌てて振り返った。
「……お前ら……」
「あんたたち、まだいたの!?」
驚く二人に、四兄弟はにやりと笑みを浮かべてみせた。
一番右端の、おそらく「兄者」であろうと思われる人物が、嬉々として一枚のカードを差し出した。
首を傾げながら受け取るヒロシに、四兄弟はどこか偉そうに踏ん反り返っている。
カードを開いたヒロシの目に飛び込んできたのは、



やっほー。今年の年越しは一緒に我が家でどうだい?
そうしたら、君たちの血を吸ってあげよう!
夕方になるまでには、家に来てくれると嬉しいな♪
お年玉もちゃんと持ってくるように。
では、大晦日に。

タナカシュウイチ





という文面だった。
カードと四兄弟を交互に見比べるヒロシ。
四兄弟は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「我々は、呼ばれたのだよ」
「タナカ様から直々にな!」
「突然押し掛けてくるような」
「そこの娘とは違ってね」
その一言に、ミカは怒った。ムキになって言い返す。
「あんた達は、タナカさんに血を吸ってもらいたいからって来てるんでしょ!?私は、純粋にタナカさんに会いに来てるんだから!おせちだって作ってきたんだから!!」
「しかし」
「我々のように」
「直々に呼ばれてもいないわけだから」
「なあ、みんな」
うんうんと頷き合う四兄弟に、更にミカの怒りは大きくなる。
「なによ、なによ!そんなカードなんか……!!」
ミカはヒロシからカードを奪い取った。
そして、文面を読み終わった後に、ヒロシを見つめる。
「ねえ、これって……」
「やっぱり気づいたか」
顔を見合わせる二人に、四兄弟は怪訝そうな顔をする。
「何だ」
「何だね」
「何なんだ」
「はっきりと言ったらどうだ」
せかす四兄弟に、ミカは低い笑い声をもらす。
「ふふ、ふふふふふ。それなら、言ってあげるわ!」
四兄弟に向かって、人差し指を突き出すミカ。
「このカードは、タナカさんが書いたものなんかじゃない!!」
ミカの言葉に、四兄弟は驚きで目を見開く。
「な」
「な」
「な」
「何ーーーー!?」
「大体、こんな文章を、あのタナカさんが書くと思うの?やっぱり、愛情の無い人っていうのは、そんなものなのね」
ミカは鼻で笑った。
「しかし」
「確かにここに」
「タナカシュウイチと」
「そう書いてあるではないか!」
慌てふためく四兄弟に、ヒロシは呆れた声で言った。
「大方、ケビンあたりの差し金だろ」
「ほらほら、呼ばれてないんだから、帰った方が良いんじゃないかしら?」
先ほどとは逆に、今度はミカが勝ち誇ったような笑みを浮かべている。今にも、高笑いをしそうなほどだ。
「いいや」
「我々は残るぞ」
「タナカ様に血を吸ってもらうまでは」
「てこでも動かん」
玄関に座り込みを始めそうな剣幕で、四兄弟は言った。
「ミカとタナカさんのラブラブ大晦日を、邪魔する気!?」
「お前こそ」
「我々の」
「恍惚大晦日を」
「邪魔する気だろう!」
言い合うミカと四兄弟。
お互いに、「帰れ」「帰らない」と、一歩も譲る気はないようである。
ヒロシは、このまま玄関の扉を閉めてしまいたくて仕方がなかった。
(まんまとケビンに嵌められたぜ……!!あの野郎、俺とシュウイチがのんびり年越すのが気に食わないからって!!)
ヒロシは、ケビンを見送って足取りも軽く帰ってくるであろうタナカの姿を想像して、一人溜息をついた。
この惨状を目にしたタナカは、一体どんな表情を浮かべるのだろうか。
来年も、吸血鬼たちに平穏が訪れることはなさそうである。
(シュウイチ、早く帰ってきてくれ……!!)
ヒロシの心の叫びは、冬の空に吸い込まれた。


A HAPPY NEW YEAR――?



というわけで、「ばんぱいあ〜」で小話を一つ。主人公が全く出ていませんが(笑)
2005年も残り僅かとなりました。
皆様は、穏やかに新年をお迎え下さい。
では、良いお年を!

2005年12月30日 up
素材:「Little Eden」





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