じゅう:はっぴーえんど?






アンディとのよく分からない戦いから三日が過ぎた。
今思い返して見ても、結局あの戦いが何だったのかはよく分からないが、一件落着したのだし良しとすることにしようとタナカは思った。
久しぶりに人間の血を飲んだことで体調を崩して風邪を引いてしまい、未だベッドの上だが、それもそれで良しとしようとタナカは思った。
だが、今目の前で繰り広げられている光景を良しとすることは、タナカには出来そうもなかった。
今日も今日とて、我が物顔で寛ぎながら漫画雑誌を読んでいる金髪のサドハンターが一人。
その横には、仕えていたハンターを見限ったのか、それとも見限られたのか、同じ容姿をし、一糸乱れぬ動きをする人物が四人。
「タナカ様、お願い致す!」
「我らの血をもう一度吸っては貰えぬだろうか」
「タナカ様の下僕として何でもいたす故!」
「あの恍惚の時を再び我らに……!」
四兄弟はベッドに縋りつきながらタナカに懇願する。
タナカは困り果ててケビンの方を見るが、ケビンは興味無さそうに、
「吸ってやれよー。減るもんじゃないんだし。むしろ栄養分を補給できて良いんじゃねえの?わーお得ー」
と、漫画雑誌から目を離さずに抑揚の無い声で言った。
当てにならないとは分かっているのに、何とかしてくれるのではないかと甘い希望を抱いた自分が馬鹿だったと、タナカは肩を落とした。
「申し訳ないんですけど、俺、血が苦手なんで……」
「吸血鬼ではないですか!」
「血を吸わない吸血鬼なんて吸血鬼ではありませぬ!」
「偏食は身体に良くない!」
「さあ、改善するために我らの首をがぶりと一噛み!」
四人はタナカの前に一斉に首を並べてみせた。親切なことに、噛みやすいようにとシャツの襟を寛げてくれている。
そこへ―――。
「シュウイチ、今日こそ決着をーーー!って、お前らまた来てたのか!?」
すっかり元気を取り戻したヒロシが勢い良く扉を開けて入ってきた。
呆れたように四兄弟を見ている。
「タナカ様に我らの血を再び吸っていただけるまでは」
「決してこの場を離れませぬ」
「協会に戻ったところで、我らは敵に与した者」
「ここにいるしかないのです」
「そんなに吸って欲しいなら、俺が吸ってやってもいいけど?お前らの血、結構美味かったし」
舌なめずりをするヒロシに、四兄弟は胸の前で両手を交差させた。
「ヒロシ殿は血を吸うのが下手なので結構」
「この間吸っていただいた後には」
「たいして恍惚の時間も訪れませんでしたし」
「タナカ様と比べると、雲泥の差、月とスッポン」
「ああそうですか!もう二度と頼まれても吸ってやんねえよ!!」
その言葉に、ヒロシは頬を膨らませてそっぽを向いた。
と、突然扉が開けられた。
扉の前に立ったままだったヒロシに、それは思いっきりぶつかった。
「ターナーカーさん、お加減いかがですかー?」
顔を出したのは、レースをふんだんにあしらったワンピースを着たミカだった。今日は上から下まで白一色である。
「お前な、ノックくらいしろよ」
扉の後ろから現れたヒロシは、痛みで顔をしかめていた。
「あら、扉の前に立っているなんて、阿呆なあなたが悪いんじゃないの」
「お前なあ……!」
「今日はミカ、カスタードプリンを作ってきました!食べてくれますか?」
憤るヒロシを無視し、四兄弟を蹴散らしてタナカの枕元に辿りついたミカは、持っていた箱を差し出した。
「あ、じゃあ後でいただきます」
「今すぐに、食べて欲しいなあ」
上目遣いで見つめられて、タナカはどうしていいのやら、ただじっと渡された箱を見つめていた。
「タナカ様!」
「そんなものより」
「我らの」
「血を!!」
箱を受け取ったタナカに、驚愕した四兄弟は口々に叫んだ。
その言葉に、ミカの額に青筋が浮かぶ。だが、顔には笑みを浮かべたままである。
「そんなもの?ミカのプリンよりも美味しい血が、この世の中のどこに存在するって言うの!?存在するとしたらそうね、ミカの血ぐらいじゃないかしら」
「わ、我らの血を……」
「タナカさんは、ミカの血以外吸いません!」
なおも食い下がる四兄弟に、ミカはきっぱりと言った。
「タナカ様がそう言ったわけでは……」
「タナカさんが言ってなくてもそうなんです!タナカさんはミカの血以外吸わないの!」
ぎゃいぎゃいと言い争う彼らに、タナカはどんどん部屋の片隅へと追いやられていく。
「お前らいいかげんにしろよ!」
ケビンの声が聞こえたので、タナカは俯いていた顔を上げた。しかし、ケビンはそれに気づくとタナカを見て、口の端を歪ませて笑った。
そして改めてミカと四兄弟に向き直ると、
「俺の貴重な読書時間を邪魔するんじゃねえよ!!」
と、四兄弟に向かって漫画雑誌を放り投げた。
四兄弟が避けたせいで、雑誌は見事にタナカの顔に命中した。
「タナカさんに向かって投げるなんてひどい!それに、自分の家で読めばいいじゃない!」
「シュウイチの家で読むからこそ意味があんだよ。大体あれくらい避けられないから、へたれ吸血鬼って言われるんじゃねえか!」
「タナカさんはへたれじゃないもん!!」
「そうだ、タナカ様はへたれじゃないぞ!」
「我らに恍惚の時間を与えたもうた神のような方だ」
「だからこそ再びあの時間を!」
「我らの血を吸ってもらうのだ!」
「だーかーらー。タナカさんはミカ以外の血は吸わないって何度言えば分かるのよ!」
狭い部屋の中で、六人はぎゃいぎゃいと言い争いを続けている。
部屋の主を放っておいて勝手なものである。


部屋の隅で膝を抱えていたタナカの隣にやってきたヒロシは、同じように膝を抱えてうずくまる。
彼らの争いに、ついていけなくなったのだろう。
「なあ、シュウイチ」
「何?」
「人間って、怖いな」
「……うん」
がっくりと肩を落とした二人は、部屋の片隅で身を寄せ合って、ひっそりとプリンを食べるのだった。
後方ではまだ言い争いが続いている。いつまたとばっちりがくるのか分からない状況である。
それでも、二人はプリンを食べ続けた。それだけが唯一、タナカの心を癒してくれるのだった。
タナカに平穏な日々が訪れるのは、まだまだ先の話になりそうである。



<了>




というわけで、『ばんぱいあ〜』これにてお開きとなります。
何だか無駄に長くなってしまったような気がします(汗)その上、更新が遅くてもう申し訳なさでいっぱいです。
それでも、彼らを書くのは楽しかったです。テンション無駄に上げなきゃいけないので大変ではありましたが。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!楽しんでいただければ幸いです。

2005年7月2日 up
素材:「Little Eden」





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