いち:少年は吸血鬼






一人の少年がおりました。
それはそれは人の良さそうな少年です。
黒縁眼鏡に詰襟の学生服。ひょろりと背が高く、少々色が白すぎるきらいはありますが、どこにでもいるような普通の高校生です。
でも、彼にはたった一つだけ秘密があったのです。

× × × × × ×

「あの?大丈夫ですか?」
突然顔の上から可愛らしい声が聞こえて、少年は慌てて跳ね起きた。
帰宅途中に貧血に襲われ、何とか公園のベンチまで辿り着いたところまでは覚えているが、そこから先の記憶が無い。気を失っていたということだろうか。
跳ね起きた少年はきょろきょろと周囲を見回す。
一体今の声はどこから?
「あの……」
もう一度声がした。今度はすぐ真横からだ。
少年は声のした方を見た。
そこにいたのは、前髪を丁寧に切り揃えた黒髪の少女だった。
―――少……女!?
少年はベンチが倒れるのではないかと思うくらい、勢い良く後方に仰け反った。
少女は不思議そうに首を傾げている。
「えと……あの、そう!だ、だ、大丈夫!大丈夫ですから!!」
早口にそう捲し立てるとすくっと立ち上がる。
その勢いの良さに、また血がすうっと下がっていく。
目の前が暗くなりかけ、少年は慌てて頭を振った。
しかしその行為が更に少年の視界を暗くさせた。縺れる足元。
少年は再びベンチに腰をおろした。
「本当に大丈夫ですか?救急車呼びましょうか?」
少女は顔を覗き込むようにして優しく尋ねてきた。
「いえ!大丈夫です!!お気になさらず!!」
「……でも……」
「本当に大丈夫ですから、気にしないで下さい。それより、あなたが俺の近くに来てからどのくらいになりますか?」
「……ええと」
少女は不思議そうな顔をしながらも、携帯電話を取り出した。
シルバーの十字架がストラップとしてつけられていた。
「多分、20分くらいになると思いますけど」
「20分!?……ええとありがとうございました。本当助かりました。このお礼は後日必ずいたしますから!俺は坂下高校のタナカ。タナカシュウイチです。じゃ、そういうことで!」
早口にそう言い、すたっと立ち上がると、タナカは大急ぎでこの場を後にしようとする。
早足で歩き出したタナカに、少女は呆然とするばかりだ。
ふと少女がベンチに目を戻すと、そこにはタナカの鞄がおきっぱなしになっていた。
少女は慌ててタナカを追いかける。
「鞄!鞄忘れてますよ!!」
追いかけて、腕をつかんだその瞬間!

ぼわんっっ

少女の目の前からタナカの姿が消えてしまった。
少女は目を疑う。
消えたタナカの代わりに、目の前にいたのは真っ黒いコウモリだった。
目の前に現れたコウモリを見た少女は、目を丸くさせて驚いた。
悲鳴が聞こえるだろうと身構えたタナカ(コウモリ)の耳に届いたのは、
「……かっ……こいい!!」
という予想に反する一言だった。

× × × × × ×

一人の少年がおりました。
それはそれは人の良さそうな少年です。
黒縁眼鏡に詰襟の学生服。ひょろりと背が高く、少々色が白すぎるきらいはありますが、どこにでもいるような普通の高校生です。
でも、彼にはたった一つだけ秘密があったのです。
そうです。彼は、吸血鬼だったのです!






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2004年11月9日 日誌にup

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