昼より先に夜を切り裂け






―――西暦二〇XX年。
日本民族を唯一の優良人種とし、他国の血を受け入れることを拒否した日本政府は、突然『鎖国』を強行した。
外国人の追放、混血児の強制収容、黒髪・黒瞳の日本人の両親から生まれた者のみを純血種の日本民族と規定した。
その日本政府の強行に、むろん他国は反発した。
国交の断絶。国際社会からの孤立。
自給自足のままならない日本は、徐々に困窮していく。しかし、政府は『開国』だけは認めなかった。
「他国に頭を下げるくらいなら、他国の血を受け入れるくらいなら、純血種として、優良人種として尊く死ね」
政府のその方針は日本を混乱に陥れた。
純血種の混血への差別はすさまじい勢いで広がった。それまで混血を産むことに魅力を感じていた大人たちは、次々と自分の子供を捨てて行く。

大人は子供を見捨てた。子供は大人に裏切られた。

しかし、このような方針の国が長く続くわけがない。日本は『鎖国』後、十数年で崩壊した。
更なる混乱が国を支配する中、混血たちは復讐を決意する。
守られ続けた純血種たちは、それに気づかない。



漆黒の闇が支配する部屋の中で、男はじっとそちらを見ていた。全ての神経をそこに傾ける。
「……誰なんだ」
生唾を飲み込み、掠れた声でそう呟いた。
「そこにいるのは、誰なんだ」
最近耳にした嫌な噂が男の脳裏を掠めた。
鎖国政策の中で、国の中枢に近かった者が殺されていっている。
その噂は、かつて自分が県知事の秘書をしていた時の知人から聞いたものだった。しかし、互いに「それほど中枢には近くなかったからな」と笑い飛ばしたのだ。
事実、男は知事の秘書であっただけであって、鎖国政策の制定に組したわけでもなんでもなかった。仕事は知事のスケジュールの把握のみだったのだ。
だが、男は今確かに何者かの気配を感じている。男は、再度声をかけた。
「そこにいるのは、誰なんだ」
しかし、そこにいる「誰か」は答えない。
過敏になりすぎていたのだろうかと、男はそこから視線を逸らした。
―――次の瞬間、男の両のこめかみには固く冷たいものが押し当てられていた。
男は誰かを呼ぼうとするが、声が出ない。冷たい汗が、額から流れ落ちる。
「これは報い」
右側から声がした。
「これは罰」
左側から声がした。
「―――これは、裁き」
二つの声が重なったのと、男が引き金を引く音を聞いたのは全く同時だった。
暗い部屋の中に、銃声が響き渡った。



―――日本暦XX年。
この国の混乱は、未だ続く。


<了>




お題:昼より先に夜を切り裂け/AIR
いつか書きたいと思っている長編のプロローグが、お題と合っていたので出してしまいました。
随分と長い間あたためている作品だったりします。書けるのはいつになるのか。
どうも「処刑人」という映画の影響が強いような気もいたします(汗)

2005年2月9日 up
素材:「水没少女」様





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