君という花
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「たまたま近くを通ったもんだから」 だからって、わざわざ買うか?いや、買わないなあ。 「安かったんだ」 安かったからって、今まで私が買ったためしが一度としてあっただろうか。いや、無い。大体こんなもんを買うなんて柄じゃないんだ。 「君のために」 そんな台詞、恥ずかしくて言えるか。しかし、これを手にしている以上、帰った時にあいつが変な顔をするのは分かりきったことだ。 どうしてこんなもんを買ってしまったんだろうなあ。 大体、これを手に持ちながら街中を歩いているという時点で恥ずかし過ぎる。 顔から火が出そうだ。 その辺に捨ててしまえればいいんだが、そういうわけにも行かないし。 何て言おう。何て言ったら一番いいんだろうか。 えーい、悩むのはやめだ! いつも通り、いつも通り適当に言って渡せばいいだけの話じゃないか。 大体、何か言ってやる必要なんてないだろう? 言わなくても長年連れ添っているんだから、分かるだろう。分かるはずだ。 「おい、帰ったぞ」 玄関の扉を開けてそう言うと、妻がスリッパをぱたぱたさせながら出てきた。 「お帰りなさい、寒かったでしょう」 そう言う妻に、無言のまま手にしていたものを無造作に差し出した。 妻は一瞬何のことか分からずに目を丸くした。 その後で、驚いたように私とそれ―――花束を交互に見た。 「今日が誕生日だって、覚えててくださったんですか」 「……たまたま花屋の近くを通っただけだ」 仏頂面でそう言って家に上がった私を、妻が呼び止めた。 「ありがとう、あなた」 振り返った私の眼に映ったのは、涙ぐんだ妻の顔だった。 その表情にに、思わず言葉が口をついて出た。 「いつも、ありがとう」 そう言うと、妻はこれ以上の幸福は無いというくらいに微笑した。 結婚しないかと言った時と同じ、あの頃のままの笑顔を浮かべていた。 恥ずかしくなって目を逸らした私の腕に自分の腕を絡めながら、妻は嬉しそうに言った。 「あの時と、同じ花ですね」 君の笑顔は花のようだ、なんて、我ながら随分と気障なことを言ったと思う。 けれど、妻の浮かべる笑顔は今もやはり、そこに花が咲いたかのような笑顔なのだった。 <了> お題:君という花/ASIAN KUNG-FU GENERATION ラブラブ老夫婦(笑)こんな夫婦になりたいなあ、なんて。 夫の昔気質な感じが、もう少し出せれば良かったなあ。 こういう話を書くには、もう少し精進しなければならないようです。 「君という花」は、アジカンの中でも特に好きな曲です。 2005年2月5日 up
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