猫心と秋の空






縁側でごろんと昼寝をするのが、晴さんの膝の上に乗っかっている次に好きだ。
芙佑が中学校から帰ってくるまでの間は、ゆっくりのんびり縁側でごろごろすることが出来る。
芙佑が帰ってきたら、触られまくりの遊ばれまくりで、のんびりしている時間なんてない。
全く、あいつは猫(おれ)をなんだとおもっているのか。
おれの名前はタケルという。この家に飼われて早8年。飼い主からの扱いは年々適当になる一方である。
子猫の頃が懐かしい……。
いやいや、そんな年寄りじみたことを思っていてはいけない。ただでさえ那津から「老いた老いた」と言われまくっているのだから。
そういえば、最近那津から文句を言われていないような……。
那津はこの家の兄弟の二番目で長女だ。
家の中で実権を握っているのも那津で、他の三人が那津に逆らうことは滅多に無い。何か言おうとしても、那津の一睨みがあまりにも恐ろしいのか、大抵引き下がってしまう。
那津はおーえるという仕事をしているらしい。
疲れた疲れたと言いながら帰ってきて、ソファで気持良く寝ていたおれを「邪魔」と突き落とす。
何するんだ!?と鳴いても、「何?」と一睨みされればその恐ろしさに引き下がるしかない。
那津から睨まれたことのある人間にしか、この恐怖は分からないだろう。
そういえば、最近那津から睨まれた覚えがない。ソファから突き落とされたこともない。
これはおかしい。
一体どうしたんだ。那津は病気か!?那津が怒らないなんて、睨まないなんて、明日は空から槍が降るに違いない。これは近所の猫連中に知らせてやらなければ!!
おれは大急ぎで家を飛び出した。


夜になって、おれはすごすごと家に戻ってきた。
大慌てで事情を説明するおれに、やつらは「慌てすぎだ」「女心の分からない猫ね」
「そんなんだから四丁目のオトも落とせないのよ」「あら、それは足が短いからよ」「いやいや、顔がスマートじゃないからだな」「タヌキっぽいからじゃないかしら」と散々なことを口々に言った。
あっちこっちに話が飛んだ挙句に、最終的に言われたのは「秋だからよ」という一言だった。
頭を悩ませているおれに、「それが分からない様じゃ、四丁目のオトに振られちまうぜ」と茶虎のマイケル(血統書付き)が言ったのを最後に、やつらはご主人様が待っているからと家へと帰っていった。
友達甲斐の無い猫ばっかりだ。
そんなわけでおれは明日降るかもしれない槍に怯えながら家へと帰ってきたのだが。
庭から入り、ガラス戸を開けてくれとぺしぺしと叩く。
がらりと戸を開けたのは那津だった。
いつもなら「おかえり」と言うのだが、今日は何も言わない。
那津?
見上げると、無言のままおれの頭を撫でた。やはり何かあったのだろうか。
「あんた餌まだでしょ?」
そう言うと、銀の皿に大好物のドライフードをざらざらと入れてくれた。
那津のことが心配だったが、この音を聞くとおれは居ても立ってもいられなくなってしまう。頭の中は餌のことでいっぱいになった。
目の前に皿を置かれた瞬間、突撃していた。
餌、餌!餌!!
がつがつと食べ始めるおれに、那津はぽつりと呟いた。
「あんたはいいわねえ」
その呟きがあまりにも寂しそうだったので、おれは食べるのを止めた。
那津?
振り返って見ると、那津はソファにもたれかかって寂しそうな微笑を浮かべていた。
おれは思わず那津の足元に行って頭をぐりぐりと擦り付けた。
「何よ、いつもは私のところになんて来ないくせに」
そう言いながらも、おれの喉を撫でてくれた。
なあ、那津何かあったのか?おれで良ければ言ってみろよ。
じっと那津を見上げるが、那津は何も言わない。
ただずっと、おれの喉を撫で続ける。
だんだん気持良くなってきて、思わず腹を見せてごろんと横になった。
それを見て、那津は小さく吹き出すと思いっきり腹を叩いた。
「調子に乗ってんじゃないわよ」
そう言った那津の表情は、いつもと同じものだった。
おれはそれを見てなんだか安心した。
「あーあ。もうすっかり秋ねえ。また一つ年を取っちゃったなあ」
そう呟くと、足でおれをひっくり返した。


翌日、仕事から帰ってきた那津はソファで気持良く眠っていたおれを「邪魔」の一言とともに突き落とした。
何すんだよっと思ったが、やはり那津はこうじゃないと。
足に擦り寄ったおれの喉を、那津は優しく撫でた。

<了>




お題:秋の気配/SCUDELIA ELECTRO
元々は小田和正さんの曲です。
私が持っているのがSCUDELIA ELECTROがカバーしたものなので、SCUDELIA ELECTROになっております。
曲はとても切なくて、胸をぎゅっと掴まれるような感じです。
小田さん版は「秋」なんですが、石田さんアレンジバージョンは「冬」という印象が個人的にはあります。
作品はなんかあんまり秋の気配って感じがいたしませんね(汗)台詞で何とかお題消化したって感じだなあ。
タケルくん視点の話は、実は書きやすかったりします。
後、篠原さん(初めて苗字出たよ!)家の四兄弟も書きやすいです。
実は兄弟の名前と誕生した季節は一致してなかったりするんですが、それはまた別のお話。

2004年10月30日 日誌にup
素材:「LEBELLION」





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