柘榴






真っ白いテーブルクロスがテーブルの上にかけられていた。
皺一つ無い、ぴんと糊の利いたクロス。
その上には、皿一杯に盛られた熟れた柘榴が置かれていた。
椅子に座らされた少年は、緊張した面持ちで柘榴見つめていた。
実がぱっくりと半分に割れ、中から真っ赤な種子を覗かせている。
その様がやけに生々しく感じられて、少年は唾を飲み込んだ。
「お食べなさい」
女性に皿を勧められて、少年は一口それに噛り付いた。
甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
一口食べるだけで、その甘酸っぱさの虜になってしまう。
少年はがつがつと柘榴を貪り始めた。
一つ、また一つと皿からは柘榴が消えていく。
女性はそれを楽しそうに見つめていた。子どもが食事をするのを見ている母親のような眼差しだ。
「いっぱい食べていいのよ。お腹が満たされるまで食べなさい」
少年はそんな女性の声が聞こえているのかいないのか、ひたすらに柘榴を頬張る。
口の周りにはべったりと柘榴の赤い果汁が付いていた。
手からも真っ赤な果汁が滴っている。
柘榴の真っ赤な果汁は人の血を思わせる。
その様はまるで人を食べているかのようでもあった。
「まあまあ仕方ないわね」
女性はそう言って少年の手を取ると、人差し指を口に含んだ。
ちゅっと音を立てると、少年の指についた柘榴の果汁を舐める。
一本一本、丁寧に舐め取る。
零さぬ様に。
少年は驚いて固まってしまう。手に持っていた柘榴が一つ、床に転げ落ちた。
「気にしないで。あなたは柘榴を食べていれば良いのよ」
そう言って少年を見上げた瞳は微笑していたが、有無を言わさぬものだった。
少年は、再び柘榴を手に取った。
しかし先ほどまでとは反対に、今度はゆっくりとした動作で柘榴に噛り付いた。
それと同時に、女性は少年の指の腹に噛り付いた。
「……っ」
突然の痛みに、少年は小さく呻いた。
「ああ大変、血が出てしまったわ」
大変と言いながらも、女性はどこも慌ててはいなかった。
滲み出る血は、柘榴の果汁と混ざり合う。赤い果汁と。
女性は血の混じった果汁を舐めた。
「ふふ、美味しいわね」
恍惚としたその表情に、少年は恐怖を覚えた。
舐めたのは、本当に果汁か。
果汁の混じった血ではないのか。
そんな疑問が脳裏を過ぎる。
少年の視線に気づいて、女性は顔を上げた。
「手が止まっているわよ。もういらないの?お食べなさいな」
少年は首を横に振った。
先ほどまで美味しいと感じていた柘榴の甘酸っぱさが、急に不快なものとして口の中に広がっていった。
「お腹は満たされた?」
少年は頷く。
真っ白かったクロスには、点々と柘榴の果汁が飛び散っていた。
女性は微笑んだ。


「そう。……じゃあ、今度は私があなたをいただきましょう」


<了>




時たま書きたくなる、「食欲」もの。今回もどうも倒錯的になってしまいました。淑女と少年という組み合わせが、なんだかとても好きなようです。
ちなみに、柘榴の花言葉は「愚かさ」「成熟した美しさ」だそうです。
どちらの「いただく」かは皆様のご想像にお任せいたします(逃)

2004.10.05 up
素材:「廃墟庭園」





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