ちょこれーと×ぱにっく!! |
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yo!yo! 今日はバレンタインデイ 愛のこもった そのチョコレートで 溶かしておくれよ このハートを HIPHOPのリズムに乗って目の前に現れた四兄弟の姿に、部屋でのんびりとしていたタナカたちは目を丸くする。 あまりのことに、ケビンは読んでいた雑誌を取り落とし、タナカは声が出なかった。 ヒロシにいたっては、驚きのあまり狼に変身してしまうくらいだ。 それまでの穏やかな空気が、ピシッと音を立てて凍りつくのをその場にいた全員が感じ取ったに違いない。 大きめのパーカーにだぼだぼのワークパンツという四兄弟の姿は、普段黒のスーツ姿しか見たことの無いタナカたちにとって、あまりにも衝撃的だった。 しかもご丁寧に、手前二人は膝立ちをし、後ろの二人は背中合わせに立ち、胸の前で両手を掲げて決めポーズまで取っている。 「…何、そのカッコ?」 何とか人型に戻ることが出来たヒロシは、恐る恐る尋ねた。 「今日が」 「何の日か」 「知っている」 「かね?」 サングラスのフレームを指で押し上げる四兄弟にタナカたち3人は首を傾げる。 「はっ」 「これだから」 「おモテになる」 「皆さまは!!」 いつにもまして強気な態度で、四兄弟は吐き捨てるように言った。 呆然としているタナカたち3人を睨み付ける。 「良いですか」 「今日は」 「乙女たちの」 「一大イベント!」 「「「「バレンタインデーではありませんか!!!!」」」」 力強く声を合わせて言う四兄弟に、タナカたち3人は、「ああ」と頷いた。 「どうでも良い」 「そうか、チョコの日!」 「で、そのカッコに何の意味が?」 落とした雑誌を拾い上げて目を戻すケビン。ポンと手を叩いて納得するタナカ。 ツッコんだのは、ヒロシだけだった。 ヒロシのツッコミが嬉しかったのか、四兄弟はほっと息をつくと、ニヤリと怪しく笑った。 「ふふふ。お教えしよう!」 「なぜこんな格好をしているかと言えば!」 「乙女たちのハートをいただき」 「ついでにチョコもいただいちゃうからなのだ!!」 四兄弟はそう言うと、「yeah!」と、胸の前で両手を突き出すようなポーズを取った。 再び、空気の凍りつく音が聞こえる。 しかし、それに気づかない四兄弟は、勢い良くまくし立てる。 「良いですかな?我らの普段の格好はあまりにも硬派過ぎる!」 「チョコを渡したい乙女たちは、近寄ることさえも出来ませぬ」 「そこでですよ!この格好であれば、乙女たちも親近感を感じ」 「チョコレートを渡しやすくなる、とこういうわけですよ!」 いつも以上に長い1人1人のセリフが、四兄弟がいかに今日のこの日、バレンタインデーに熱い思いを持っているのかを感じさせた。 けれど、はっきり言ってしまえばそんなことはどうでも良いタナカたち3人は、何と答えて良いのか分からず、互いに顔を見合わせる。 「へ、へええ」 「ちょ、チョコレート、貰えると良いよね」 引きつった笑みを浮かべてそう言ったヒロシとタナカに、四兄弟は、 「タナカ様!」 「我らのことを思った」 「お優しいお言葉」 「ありがとうございます!」 一斉にタナカに向かって深々と頭を下げる。 そして、いかに洋服を買うのが大変だったか、決めのポーズが決まるまでに1週間近くもかかったのだということを熱く語り始めた。 四兄弟の話に、苦笑を浮かべながらもうんうんと頷くタナカとヒロシ。 最初は、それをつまらなそうに眺めていたケビンだったが、面白いことを思いついたと、今にも舌なめずりしそうな顔で問いかけた。 「なあ。<たとえば、誰か一人だけがチョコを渡されたとしたら、どうすんの?」 その一言に、四兄弟の間に爆弾を投げつけられたかのような衝撃が走る。 それを見つめるケビンの笑みは、とても意地の悪いものだった。 「「「「我のものに決まっているだろう!」」」」 4人は、今までに無いくらいに見事に声を合わせて叫んだ。 だが、叫んだ後で互いに発した言葉の意味を察し、気まずい空気が流れる。 「お前ら、この兄者を差し置くというのか!」 怒鳴りつける兄者に、残りの三兄弟はそっぽを向いた。 「兄者だからと」 「いつでも美味しい思いを出来ると思うのは」 「大間違いですぞ!」 四兄弟の間に、今までに無い険悪なムードが流れる。 「タナカ殿に」 「血を吸っていただいたのも」 「兄者が一番でしたしな」 「そもそも、兄者以外は」 「我らには名前さえ」 「ありませんしな」 三兄弟は、冷たい眼差しで兄者を見つめる。 そのあまりの冷ややかさに、兄者は口を開くことが出来なかった。 おろおろと、事の成り行きを見守るヒロシとタナカ。間に入った方が良いのでは無いかと、互いに目配せし合っている。 爆弾を投げつけたケビンはと言えば、鼻歌交じりに雑誌の続きに目を通している。 (お前が何とかしろーーっっ) 叫びたいタナカとヒロシだったが、コルトパイソンが恐ろしいので、そんなことは口に出せない。 出したが最後、節分の時の二の舞である。 「思い返せば」 「幼い頃から」 「兄者ばかり」 「良い思いを」 「しているでは」 「ありませんか」 「そ、そんなことは無い…!!」 「そうですか?」 「我らには、そのように」 「見えますがね」 冷たさ三割増しの眼差しを、三兄弟は兄者に向ける。 さっきまでとは違った意味で、空気が凍りついていっている。 凍っていないのは、ケビンの周りくらいのものだろう。 「まさか、お前たちにそんな風に思われていたとはな…」 兄者はため息をつくと、悲しげに瞳を伏せた。 「常に我らは一心同体。そうずっと思っていたのは、我だけだったのか。それにも気づかないでいたとは、我は兄者失格だな」 そう言って、三兄弟に背中を向けると、兄者はレンズに隠された目尻を、指先でそっと拭った。 鼻を啜り上げる音が聞こえる。 タナカは、持っていたハンカチをそっと兄者に差し出した。 「タナカ殿……」 何も言うな、と言うように、ヒロシとタナカは微笑を浮かべると、首を横に振った。 そして、力づけるかのように、兄者の肩に力強く手を乗せた。 「お前は、頑張ってるよ」 「そうだよ。俺があんなにも苦戦したのだって、君たちのチームワークが凄かったからだよ?」 ヒロシとタナカは、温かい眼差しを兄者に向ける。 そして、振り返ると、三兄弟に向かって優しく微笑んだ。 「君たちだって、本当は兄者が大事なんだよね?」 「……それは」 「その……」 「大事では……ありますが」 バツの悪い顔で、三兄弟は口の中でもごもごと呟いた。 「それだったら、たとえチョコレートが一個しかもらえなかったとしても、みんなで仲良く分ければ良いじゃないか」 「そうだぞ。お前たちの良いところは、四人いるからこそ、なんだからな」 いつに無く、穏やかな雰囲気が流れ始める。 ケビンはだけが、つまらなそうにこちらを眺めている。 タナカとヒロシは、心の中で思った。 (どうかもう、何も言わないでくれ……!) と。 「タナカ殿が」 「そう仰るのでしたら」 「ただし……」 真剣な眼差しで、三兄弟はタナカを見つめる。 「タナカ殿が」 「我らの血を吸ってくださるなら」 「和解いたします」 「お前たち……!!」 「兄者だけが良い思いを」 「していないという証を」 「見せていただきたい」 ずいっと、三兄弟は言葉を紡ぐごとにタナカに迫ってくる。 「ええとー」 弱ったなと、タナカは頬をぽりぽりとかく。 「俺が吸ってやるってのは、ダメ?」 ここしばらく吸血行為をしていないヒロシは、目を輝かせて三兄弟に問いかける。 「ヒロシのでは」 「恍惚は訪れないと」 「以前も申しましたが?」 冷たい眼差しを向けられ、がっくりと肩を落とすヒロシ。 「ああそうですか。いいですよいいですよ。そういやあ、今日はVBB特製、ブラッディ・チョコが贈られてくるんだったしな!」 へっへーんと、何でも無かったかのように言うヒロシだが、傷ついたのだろう。 雑誌を読んでいるケビンの元に、とぼとぼと戻っていった。 「タナカ殿」 「兄者と我らの和解のために」 「ぜひとも、血を……!!」 迫り来る三兄弟。 兄者は事が事だけに、助け舟を出すことさえも出来ない。 ヒロシは打ちのめされているし、ケビンに至っては助ける気など毛頭無い。 「さあ」 「タナカ殿」 「血を!」 首筋を顕わにしながら、三兄弟はまた一歩、タナカに迫ってくる。 と、そこへ――。 「ちょっと待ったーー!!」 勢い良く部屋の扉が開かれ、現れたのは珍しくピンクのロリータ服に身を包んだミカだった。 「タナカさんに血を吸ってもらおうだなんて、ミカが絶対に許しません!」 綺麗にラッピングされたハート型の箱を手にしているところをみると、タナカにチョコレートを届けに来たのだろう。 「ミカ殿の」 「許しなど」 「必要ありませんな」 冷たく言い放つ三兄弟に、ミカは胸を反らせて声高に言った。 「あら、そんなことを言っても良いの?」 ニヤリと笑うと、カバンから別の箱を取り出す。 手にしているハート型の箱とは違い、簡素なラッピングがされている。 「これが、何だか分かる?」 三兄弟と、そして兄者にも衝撃が走る。 「ま、まさか」 「そんな」 「敵対している」 「我らなのに……!?」 「いらないって言うんなら、ミカは別に良いんだけどね。タナカさんのを作るついでに作っただけだし」 「ミカ殿……!」 「いいえミカ様!」 「どうか、それを」 「我らに……!!」 今にも平伏しそうな勢いの四兄弟。 ミカはにっこりと満面の笑みを浮かべると言った。 「タナカさんに、血を吸ってもらわなくても良いよね?」 「うぐ」 四兄弟は、言葉に詰まる。 「血、吸われなくても、良いよね?ね?」 表情は笑顔のままだと言うのに、四兄弟はその笑顔の下から言い知れぬ圧力を感じた。 「……吸われ」 「なくとも」 「良いです」 「チョコがあれば……」 その答えに満足したミカは、優しく微笑むと、簡素なラッピングの箱を四兄弟に渡した。 「ハッピーバレンタイーン♪」 渡された箱のラッピングを、四兄弟は我先にと破き始める。 そして、中から出てきたトリュフに、歓喜の雄叫びを上げた。 「兄者!」 「チョコですぞ」 「チョコ!」 「チョコだ!!」 単純に喜んでいる四兄弟。 その姿に、ミカは首を傾げ、タナカに向かって問いかけた。 <「どうして、あの人たちあんなカッコなんですか?」 「……チョコレートを、受け取りやすいように、なんだってさ」 苦笑を浮かべるタナカに、ミカは思いっきり爆弾を投げつけた。 「でも、結構キモイですよね。あのカッコ」 その一言に、今日だけで一体何度目になるのだろう、空気が、ぴしりと音を立てて凍りつくのが聞こえた。 ミカは、それに気づかないのか、何事も無かったかのように満面の笑みを浮かべて、タナカに向かってハート型の箱を差し出す。 「ミカ、タナカさんのために一生懸命作りました! よ、よ、良かったら、貰って下さい!!」 頬を真っ赤に染めて、両手でチョコレートの箱を差し出すミカの姿は可愛らしいものだったのだが、その後方で倒れ伏している四兄弟のことを思うと、タナカの心中は複雑だった。 「兄者!」 「兄者しっかり!!」 「兄者の発案だとは、我ら以外知りませぬ!!」 さらに三兄弟に止めを刺された兄者は、もう立ち上がることが出来なかった。 負けるな兄者。 頑張れ兄者。 勝利はいつか、君の手に! <了> というわけで、今年もやってまいりましたよ、小話の時間です。 うっかり忘れて、こちらにはバレンタイン過ぎてからのアップになってしまいました(汗) 少しでも楽しんでいただければ嬉しいです♪ 2007年2月9日 携帯サイトにup |
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