豆まき×ぱにっく!!





「死んでくれないか……?」
学校から帰ってきたタナカが、今日発売したばかりのステップを読もうかと鼻歌交じりに自分の部屋の扉を開くと、目の前にはコルトパイソンを構え、深刻な表情でそう呟くケビンの姿があった。
向かい合う形で、ヒロシが立っている。その顔色は、蒼白だった。
何故なら、銃口はヒロシの方を向いていたのだから。
「……本気、なのかよ」
ヒロシはごくりと唾を飲み込んだ。
「冗談でこんなものを出すと思うのか?」
その言葉に、タナカもヒロシも、ケビンが冗談でコルトパイソンを出してきたかつての様々な出来事を思い浮かべた。しかし、それを口にすることは、ケビンの表情が許さなかった。
今までに見たことがないほどに、ケビンの表情は深刻だった。
「お、落ち着けよケビン!」
タナカが口を挟む。しかし、ケビンはそれに一瞥をくれただけだった。
その目は、「いたのか」と物語っていた。
人の部屋で物騒な状況を繰り広げておきながら、それはないだろうとタナカは思ったが、口にしようとした瞬間、ケビンが引き金を引くのが見えた。
「死ね!!」
そう叫ぶ声が聞こえ、咄嗟にタナカはヒロシを突き飛ばした。
だが、時すでに遅し。
「っくう……!」
ヒロシは胸の辺りを押さえると、小さく呻いた。
「ヒロシ!!」
普通の弾丸を撃たれたのであれば、不死身の吸血鬼には屁でもない。しかし、銀の弾丸であったとしたら、ヒロシの身体は灰となって消えてしまう。
ケビンがコルトパイソンを使う時は、決まって中身は銀の弾丸だった。
ヒロシの元に駆け寄るタナカに向かって、ケビンは冷たく呟いた。
「何で邪魔すんだよ」
「殺されそうになってるのを、見過ごせないだろ!」
叫ぶタナカに、ケビンはきょとんとして呟く。
「は?誰が殺されそうになったってんだよ?」
訳が分からないといったケビンの様子に、タナカは怒りがこみ上げてきた。
「今、ケビンがその口で”死ね”って言ったんじゃないか!!」
「あんなの俺の口癖みたいなもんだろう」
「……なんで、なんでヒロシにこんなことを!ヒロシが死んだらどうするんだ!!」
「死ぬわけ無いだろうが」
馬鹿じゃねえのとでも言いたそうなケビンの口調に、タナカは拳を振り上げそうになった。ケビンに対してそんな行動に出そうになったことは、今までに一度や二度ではなかったが、今回は今までとは怒りの質が違う。
だが、振り上げた手をヒロシが止めた。
荒い呼吸で何事か口を動かすヒロシ。
「……たくない」
「”死にたくない”?……大丈夫だ!きっと助けてみせる!!」
ヒロシの手を、タナカは力強く握る。
だが、ヒロシは首を横に振る。
「……たくない。どうしようシュウイチ、痛くないんだよ!」
ヒロシの言葉に、タナカの目が点になる。
「痛くないって……だって今ケビンが……」
ケビンとヒロシを交互に見比べるタナカ。
すると、ケビンがポケットから何かを取り出した。
「さて。ここで、問題です。俺が撃ったのは何だったでしょーか。
1.銀の弾丸
2.豆
はい、ヒロシ!」
ケビンは、倒れたまま手を上げるヒロシを指差す。
「……ま、豆……?」
恐る恐る答えるヒロシに、ケビンは思いっきり手にしていた豆を投げつける。
「痛っ」
「正解!答えは、豆、でした♪」
楽しそうに笑うケビンに、ヒロシとタナカは開いた口が塞がらない。
ぽかーんとしたまま、ケビンを見つめている。
「で、シュウイチくんよ、あれかね君たち吸血鬼は豆ごときで死ぬのかね?」
小馬鹿にした口調のケビンに、タナカは言葉を詰まらせる。
「豆ごときで死んだらー、吸血鬼として恥ずかしすぎー。あ、それともー吸血鬼も鬼の一種だからー、豆で死んじゃうのかもー。そんな弱い吸血鬼なんてー、ケビン信じらんないっ」
裏声を使って、どこぞの女子高校生のように喋りながら、ケビンは楽しそうに笑う。それはそれは楽しそうに。
今にも大声を上げて笑い出しそうだ。
「な、なんで、こんな……」
言葉が続かないタナカの代わりに、ヒロシが口を開いた。
「なんでこんなアホなことすんだよ!?」
「……だって、今日は豆まきなんだろ?鬼に豆をぶつけて良い日なんだろ?俺は日本の風習に則っただけだ」
「俺たちは鬼じゃないだろうが!!」
「馬鹿かお前。漢字で書いたら吸血鬼。血を吸う鬼、だろ。お前の方が長く日本にいるってのに、ダメだねえ」
やれやれと、大げさに肩をすくめてみせるケビン。しかし、すぐさま唇の端を吊り上げて、にやりと笑った。
「さて、と。改めまして」 その笑みに、タナカとヒロシは危険を感じてゆっくりとあとずさる。
ケビンは、特製の豆まき仕様コルトパイソンを再び構えると、二人に狙いを定めた。
「……鬼は外!死ね!!」
ケビンがそう叫ぶのと同時に、次から次へと豆が二人に向かって飛んでくる。
逃げ惑う二人を見て、ケビンはそれはそれは楽しそうに大声を上げて笑った。
(鬼はまさにお前だ……!!)
二人は、これ以上被害が酷くなると困るので、ひっそりと心の中だけで呟いたそうな。

<了>




そんなわけで、またもややってまいりました、小話の時間です。
前回の小話に出なかったせいか、ケビンがやたらとうるさくて困りました。そして相変わらずセリフの少ないタナカ(汗)主人公なのにねえ……。
何も考えずにノリと勢いだけで書いているこのシリーズですが、楽しんでいただければ嬉しいです!……というか、このシリーズに関して言えば、自分が楽しめればそれで良いかもしれません(笑)

2006年2月3日 up
素材:「tricot」



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