自殺警報発令中






誰かの叫び声が聞こえたような気がして、僕は目を覚ました。
目覚まし時計はまだ6時。
いつもよりも一時間も早く目が覚めてしまった。
欠伸をしながらリビングへと向かう。
台所では母親が忙しなく朝ごはんの準備をしていた。
「あら、今日は随分早いのね」
皮肉めいてそう言う母に、
「何か誰か叫んでなかった?」
そう訊ねてみる。
「えー?母さんずっと台所にいたしなあ。夢でも見たんじゃないの?」
水道の音で聞こえないのか、母は随分と大きい声でそう言った。
僕は「そうかも」なんて言いながら冷蔵庫から牛乳を取り出した。
パックのままがぶがぶと飲む。
その合間にテレビのスイッチを入れた。

「長く続いた雨も止み、本日の天気は晴れ。気温も20度まで上がり、過ごしやすい一日となるでしょう。溜った洗濯物も今日一日で乾いてしまうはず。洗濯予報は◎!!」

丁度天気予報の時間だった。
お天気お姉さんは朝からいつも元気だなと思う。
まあ仕事なのだから仕方ないのだろうけど。寝起きの頭にはこの元気さはちょっとうるさいかもしれない。
しかし次の瞬間、お天気お姉さんは顔を曇らせた。

「ですが、本日の自殺予報は80%と高くなっています。交通機関の緊急停車などが予測されますので、通学・通勤でお急ぎの方はいつもよりもちょっとだけ早くお出かけになった方が良いでしょう。また、飛び降り自殺が多発する可能性もありますので、傘をお忘れなく」

神妙な顔でそう言った。だが、すぐさま笑顔を見せると先ほどまでと同じ明るい声で、
「以上、お天気でした!スタジオにお返ししまーす。小塚さーん!!」
ぱっと画面が切り替わった。
その瞬間、僕は台所に向けて大きい声を出した。
「母さん!今日の自殺予報は80%だってさ!」
水道を止める音が聞こえる。
「あらあら。じゃあ急いでお父さん起こさなくちゃ」
エプロンで濡れた手を拭いながら、母はスリッパをぱたぱたさせて父の寝室へと急いだ。
僕も電車が遅れると困るので、自室に戻り制服へと着替え始めた。
「お父さん、今日の自殺予報は80%ですってよ」
そう言って、父を起こす母の声が聞こえてくる。
鞄に教科書を詰め込んでいると、母が僕の部屋の前に蒼白な顔で立っていた。
「どうしたの?」と訊ねる僕に、母は黙って首を振った。
嫌な予感がした。
僕は急いで父の寝室へと向かう。
からっぽのベッド。
開け放されたままの窓。
揺れるカーテン。
ベランダに出た僕は、恐る恐る階下を見下ろした。
そこにあったのは、マンションの10階から飛び降りた、父の無残な姿だった。
僕が夢の中で聞いたと思っていたあの叫び声は、父のものだったのだ。
また、誰かが叫ぶ声を聞いた気がした。
真っ青に晴れた空が、何だかとても恐ろしいものの様に思えた。


<了>



素材:「ぐらん・ふくや・かふぇ」





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