no title・3






セアの言葉にジイは微笑んだ。
「傲慢だと言う事は分かっておる。この世界が滅べば良いと言っているようなもんじゃからな。じゃが、この機会を逃したら、わしは一生後悔する。否、あの時からずっと、後悔しない時なんぞなかった。許してくれとは言わん。じゃが、これ以外に瑞希を帰す方法があるか?」
ジイの真剣な眼差しに、瑞希もセアも何も言えなかった。
「でも……」
それでも何か言おうと、セアは口を開く。
けれど、それは言葉として形にならなかった。
俯くセア。
瑞希は、何か言おうと懸命に口を動かそうとする。けれど、思いに反して言葉は何も出てきてはくれなかった。
ジイは、意を決して二人を見つめた。
「やるぞ」
ジイは低くそう言うと、氷づけにされた彼女に手(正確には前足だが)をあてて、何事かを呟き始めた。
呪文であろう何かは、三人のいる空間に不思議なリズムで響き出した。
本当に、これが一番良い選択なのだろうか。
瑞希には、この方法が一番良いとは思えなかった。
自分が帰るために、この世界をまた混乱に陥れるなんて、そんなことが許されるはずが無い。
ジイの唱える呪文は、途切れることなく続いている。
「ダメです!」
ジイの呪文をかき消すくらいの大きな声が響き渡った。
「やっぱりダメです!」
ジイは、ゆっくりと瑞希を振り返る。
「ダメ……?」
それまで穏やかだったジイの表情が一変した。
「ダメとは、どういうことじゃ?」


↓up
「どういうことじゃ!」
ジイは、物凄い剣幕で瑞希を怒鳴りつけた。
その剣幕に、瑞希は肩を震わせた。
「わしが、わしがどれだけこの時を待っていたのか、お前に分かるのか!?分からんくせに、邪魔をするな!!」
その声は、今までのジイの声からは想像もつかないほど恐ろしいものだった。
ジイは、瑞希の腕を強く掴んだ。
瑞希は痛みに顔をしかめる。
「ジイ!!」
それを見ていたセアは、慌ててジイの肩を掴む。
「落ち着いてや!」
「うるさい!離せ!!」
ジイはセアの腕を力いっぱい振り払う。
「瑞希を責めるのは筋違いやろ!?」
その言葉とともに、ジイの頬が鳴った。
「何をする!?」
「頭冷やしい!!」
目を見開いて怒鳴りつけるジイに、セアは言った。セアとジイは互いに凝視し合う。
「……これが、最後のチャンスなんじゃ」
セアから視線を逸らして、ジイは言った。
「ジイさんの気持ちも分かります。でも……」
思い切って、瑞希は口を開く。 「この方は、何のために犠牲になったんですか?世界を救うために犠牲になったのに、目覚めた時にその世界が崩壊していたら、どう思うんでしょうか。この方の犠牲が、無駄だったことになりませんか?」
瑞希は訴えるように言った。
ジイは押し黙ったままだ。決して、瑞希の方を見ようとはしない。
「ほんまにそれしか道がないんか、もう一度考えてみよう?」

<続く>




日誌タイトルで連載中の一文小説の2005年6月連載分までに加筆訂正を加えました。
まだまだのんびり連載ですが、お付き合いいただければと思います。

最終更新:2005.07.09



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