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no title
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雨の日は嫌いだ。雨の日は憂鬱になる。雨の日は……。 窓の外をちらりと眺めやって少女はそう思った。 溜息を一つつく。 天気予報では今日一日雨だと言っていた。 つまり最低でも今日一日憂鬱な気分が続くと言うことだ。 少女はもう一度深く溜息をついた。 窓の外をもう一度見る。 雨はまだ降っている。 雨はまだ、降り続けている……。 少女はふと思いついて玄関へと向かった。 お気に入りの赤い長靴を靴箱から取り出した。 お気に入りの赤い傘を持つ。 傘を差して長靴を履いて、外へと飛び出した。 ぽつぽつ、とリズミカルに傘に雨粒が落ちる。 雨音に合わせて足取りもリズミカルになる。 ぱしゃん、ぱしゃん。 だんだんと楽しくなってきて、わざと水溜りの中を歩く。 水飛沫が跳ねる。 ぱしゃ、ぱしゃん。 不意に、何かがきらっと水溜りの中で光った。 少女は、スカートの裾が水溜りにつかないように気をつけながらしゃがみ込んだ。 水溜りを覗き込むと、傘と自分の顔が歪んで映った。 光った何かを掴もうと水溜りに手を入れた。 水面が揺れる。 揺れる。 揺れる。 広がる波紋。 冷たい何かが掌に触れた。 硬い。 ビー玉だ。 青いビー玉。覗き込んだら景色が逆さまに映った。 もっと近づけて覗く。 深い深い青。海のような、青。 突然どこからか波の音が聞こえてきた。 少女は驚いてビー玉から目を離した。 周囲を見ると、そこは一面の海だった。 呆然と、ただその光景を眺める。 頭の中は真っ白。何も考えられない。 目を疑った。何がどうなっているのか分からない。 少女の思考が混乱する間も、海はただ静かに波打っていた。 ぱしゃん、と近くで水音がした。 魚が跳ねたのだろうかと、少女は音のした方を見た。 そこにいたのは、人魚だった。 金色の髪が、日の光でさらにきらきらと輝いて見える。 少女を見るとにこりと微笑した。 「どこから来たの?」 少女はなんと答えていいのか分からず、ただ首を横に振った。 人魚は、一瞬綺麗な顔を歪めた。 「わからんてことありゃしまへんやろ」 そう言うと、また元のように微笑した。 少女は呆気に取られる。 ギャップに驚いた。 まさか人魚がそんな口調で話すなんて……! 「あの、本当に分からないんです」 おずおずと口を開いた。 人魚は、じっと少女を見つめる。 「それは大変やねえ。帰りたいの?」 どうやら信じてくれたようだ。 少女はほっと安堵の息をついた。 しかし、帰りたいのかという問いに強く頷くことは出来なかった。 帰りたいのだろうか……? 「多分、帰りたいと思います」 はっきりと断言することは出来なかった。 人魚は首を傾げた。 「多分、ねえ……。まあええわ。案内するから着いて来なさい」 人魚の尾が跳ねて水飛沫があがった。 「あ、案内ってどこに……!?」 「どこって……。海の中に決まってるやないの」 当たり前のことではないか、という顔で人魚は言った。 驚く少女をよそに、人魚は少女の手を引っ張っる。 徐々に少女の体は海の中へと沈んでいく。 少女は思いっきり息を吸い込むとぎゅっと目を閉じた。 ざぶん!! …………? 少女は恐る恐る目を開けた。 水中に光が差し込んできて、きらきらしていて綺麗だった。 光の中に吸い込まれてしまうかのような感覚を覚える。 何よりも驚いたのは、呼吸が出来るということだった。 口と鼻から出た空気の泡が、ぽこぽこと海面に向かっていく。 不思議に思って、人魚に掴まれている腕をじっと見つめる。 人魚はその理由を知っているのだろうか。 心中を察したのか、人魚は振り返るとにっと笑った。 少女には、一瞬その笑みが恐ろしいもののように見えた。 尋ねようと思っていた疑問は、その拍子に頭の片隅から消えてしまった。 本当に、この人魚について行って大丈夫なのだろうか。 逆にそんな疑問が浮かんできた。 人魚は、「こっちだよ」と言うように、右手で海底を指差した。 指の先には、人が2,3人入っても平気だろうと思われるほど大きな巻貝があった。 あまりの大きさに驚いて、少女はそれを見上げる。 その間に人魚は巻貝についている扉の前に立つと、尾で二回扉をノックした。 「ジイ、いるんでしょう?」 人魚の声に、扉の中から出てきたのは長い髭を蓄えた亀だった。 亀は先に少女を一瞥すると、次に人魚を見た。 「なんじゃ、セアかい。そっちは誰だい?」 「なんじゃ、じゃないわよ。……えーと、名前なんて言いはるの?」 人魚―――セアはすっかり忘れていた、という顔で少女を見た。 「あ……。ミズキ、です。瑞希」 少女―――瑞希は丁寧に名前を二度繰り返した。それを聞いたセアは、そういう名前だったの、というように瑞希を見つめた。瑞希と目が合うと、セアは苦笑を浮かべた。 瑞希も、名乗ることをすっかり忘れていた自分が恥ずかしくて同じように苦笑を浮かべた。 「で、用事はなんだい?」 ジイは、今度は瑞希の方をしっかりと見て言った。 瑞希は、言っていいのか一瞬躊躇った。 (変な人だと思われないだろうか……) そんな不安が瑞希の心中を駆け巡った。助けを求めるようにセアの方を見る。 セアは首を縦に振ると、大丈夫というように瑞希を促した。 瑞希はゆっくりと口を開いた。 瑞希が事情を説明する間、ジイは真剣な表情で耳を傾けてくれていた。 そのジイの態度のおかげで、瑞希は躊躇わずに最後まで事情を説明することができた。 話を聞き終わった後、ジイは長い髭を撫でながら首を傾げた。 「……向こうの世界からの入口は、閉じたはずだったがなあ」 ぽそりと呟く。 瑞希が訝しげに見つめると、「いやいや、なんでもない」と慌てて顔の前で手を振る。 「帰る方法を知ってますか?」 「知ってるといえば知ってるがなあ」 曖昧なジイの返答に、セアが噛み付いた。 「知っとるなら知っとるで教えたらええやないの!!」 「教えないとは言ってないだろう?」 二人が言い争いそうな空気を感じた瑞希は、それを止めるために思い切って口を開いた。 「何か難しいことでもあるんですか?」 瑞希の問いに、ジイは顔を曇らせた。 「難しいと言うかなあ……」 長い髭を触りながら言う。 ジイは暫しの沈黙の後、唐突にこう尋ねた。 「あんた、雨の日は好きかね?」 <次頁> |
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