新生
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「逃げ延びろ。源の名など捨てて。そして、自由に生きろ。お前にはそれが良く似合う」 深夜。不意に義経は目を覚ました。 夢の中では最愛の兄と別れたばかりであったが、現実には数ヶ月が経過しようとしていた。 幕府と朝廷の思惑など知らず、上皇の策にはめられてしまったというのに、兄は逃げろと言った。 政治のことなど分からなかった。 ただ自分は戦ができれば良かった。 けれど、そんな時期は過ぎてしまった。 これからは政治がものを言う。武力は必要なくなるのだ。 そして、自分も―――。 悲しみに浸るわけではない。 自分には新たに生きる道が与えられた。 他に何を望む? 自由になれぬ自分の代わりに、自由に生きろと兄は言ってくれた。 何を悲しむ必要がある? けれど、心は望むのだ。 兄の傍らで一生刀を振るうことを。 兄を守ることを。 ―――過ぎた望みだ。 義経は嘲笑する。 その望みを消し去ったのは、紛れもなく自分自身なのだ。 上皇の策にまんまとのせられ、嵌められてしまった自分の。 兄と自分を不仲に追いやり、幕府を混乱させようとした上皇の策に、気づくことの出来なかった自分の。 「責は己にあるというのにな」 呟いた言葉は、夜の闇に吸い込まれた。 義経はその闇の先をきっと睨みつけた。まるでその先に憎い相手がいるかのように。 もたもたしている暇はない。 目指すは―――奥州。 そこで義経は、新たな生を手に入れる。 <了>
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