国際嘘つき連盟





二回玄関のベルを鳴らされて、部屋の主である前川はまだ半分寝ている頭で玄関へと出て行った。
億劫にドアを開けた瞬間、勢い良く何かが振ってきた。
―――紙ふぶき。それと同時に聞こえてきたのは、眠い頭にはうるさいほどの明るい声。

「パンパカパーン!!おめでとうございます!あなたは一日嘘つき日本代表に選ばれましたーーー!!」

「……はあ?」
前川は一気に眠気が覚めるのを感じた。
何を言っているんだこいつは。わざわざ眠いのに出てきてこれかよ。
額に青筋が浮かぶ。
相手を睨みつける。そこにいたのはスーツ姿の男と女。
女はノンフレームの眼鏡をかけている。見るからに私出来ます、と言った感じである。
「でーすーかーらー。あなたは四月一日、エイプリルフールの本日、嘘つき日本代表としてですね」
「っていうか、あんたら何?」
「ああ、これはこれは自己紹介が遅れました。私、国際嘘つき連盟日本支部担当のオオウ・ソツキと申します。あ、これ名刺です」
「私はオオウ・ソツキの秘書をしておりますウソウ・ツキコと申します」
「あ、どうもどうも……じゃなくてーーー!!」
前川は貰った名刺と相手の顔を見比べる。
大嘘つきに嘘つき子だあ?ふざけんじゃねえよ。

「っていうかさ、その国際嘘つき……?連盟?って何するところ?」
苛立ちを隠そうともせずに前川が尋ねると、ウソウが赤い唇を丁寧に動かして言った。
「私ども国際嘘つき連盟は、毎年四月一日、エイプリルフールに世界中の嘘つきから各支部代表を選出しまして、その方に嘘つき代表として一日嘘をついていただこう、とこういう趣旨の活動をしている団体でございます」
「そこでめでたく本年度の日本支部代表として前川様が選ばれた、とこういう次第でございまして」
「ご理解いただけましたか?」
「……で、何で俺?」
すると、ウソウが鞄の中からファイルを出し、それを捲り始めた。
「前年度日本支部嘘つきランキングを参照いたしますと、前川様は2位以下に2000嘘も差をつけて6543嘘と断トツでトップです。この事から、支部代表として前川様を選ばせていただきました」
「何そのランキング!?いつチェックしたってんだよ!!」
「それは、企業秘密でして」
「思いもよらないところで、人は見ているものですよ、前川様」
そう言うと、二人は気味悪くにやりと笑った。
前川はその笑みに一歩後ずさる。
去年友人に嘘をついて金を借りたことや、両親に嘘をついて金を借りたこと、どこの誰とも知らない女を騙して金を稼いだこと、などなど、とにかく様々な自分の嘘が思い出された。

「そ、その代表っていうのは、絶対なんですか?」
突然敬語になって前川は言う。口調も先ほどよりも柔らかい。
「代表として選出されたんですよ!?こんなに喜ばしいことが他にあるでしょうか?いやありません!!さあ、このタスキを受け取って!!」
オオウは「一日嘘つき」と書かれたタスキをずいっと前に出した。
「……どうしても、ですか?」
「拒否されるのですか?その場合、国嘘連条約第95条により、前川様が前年度つかれた6543嘘分の金額を支払っていただくことになりますが構いませんか?」
「支払えばいいんですね?いくらですか!?6543円!?」
「いえいえ。第95条は一嘘一万円と規定していますから、前川様の場合6543万円と、このようになります」
「じょ、冗談でしょう!?支払う義務なんて、そんなの無い!!……っていうか、これ自体嘘なんでしょう?そうでしょう?大体国嘘連なんて、そんなの聞いたことないですよ」
「おやおや、もしや前川様ニュースや新聞をご覧になってないのですか?国嘘連が発足された時、あんなにマスコミに騒がれたじゃありませんか。大体、国連加盟国は国嘘連にも同時に加盟する、これ世界の常識ですよ?日本の法律にも定められているはずですが?」
「国連・また国嘘連条約に違反した場合、その者は日本国憲法ではなく国連・また国嘘連条約に基づき裁かれるものとする」
「そんなの聞いたことも無い……!!」
「前川様、いくらぐうたら大学生とは言っても、そんな調子では就職も危ういですよ。新聞、読んでくださいね」
「嘘だ!絶対に嘘だ!!俺は信じない!!」
「困りましたねえ。そうだ、ご友人に電話されてみてはいかがです?」
「……そうさせてもらいます」
オオウが差し出した携帯電話には手も触れず、前川は自分の携帯を持ってきた。

「あ、もしもし?俺。前川。朝から悪いな。ちょっと聞きたいんだけどさ、佐倉、国嘘連って知ってるか?……だから、国嘘連。国際嘘つき連盟!」

前川は、電話の相手が「知らない、何だそれ」と笑い飛ばしてくれることを願った。
だが、返ってきたのはその願いを裏切るものだった。
前川はあまりのことに携帯を取り落とす。

「……本当、なんですか?」
「ですから、私どもがこうして足を運ばせていただいているのですよ。信じていただけましたか?」
オオウはにっこりと優しい笑みを浮かべた。
「……これをつけて、一日嘘をつけば良いんですね?」
「はい。出来るだけ人の多いところでお願いいたします」
微笑むオオウからタスキを受け取ると、前川は勢い良く外に向かって飛び出して行った。



前川の取り落とした携帯は以前通話状態のままで、オオウはそれを拾うと話し出した。

「お聞きになった通り、ご依頼の件片付きました。
今後も何かありましたら、当社にご連絡下さいますよう。当社へのご依頼、誠にありがとうございました。佐倉様も、嘘にはお気をつけ下さいませ」
そう言うと、オオウは電話を切った。




四月一日、エイプリルフール。
嘘は、ほどほどに……。



<了>




素材:「Little Eden」



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