瞬光





一面に広がる田んぼ。
風で波打ち、まるで緑色の海のようだ。
ここから見る限りでは、ふわふわとした絨毯のようだが、実際に飛び込んでも羽根のような感触で受け止めてもらえるわけではない。
街灯の全く無い中を、少年は一人灯りも持たずに歩く。
時折すれ違う車のヘッドライトが、やけに眩しく感じられた。
暗闇に慣れていた目には痛いほどだ。
いつもは自転車で通り過ぎてしまう道を、今日はゆっくりとした足取りで歩く。
一年前も同じようにこうしてここを歩いていた。
変わらない景色。
変わらない自分。
変わったのは、隣にいた相手がいないことだけ。
一緒にこの光景を見ていた相手が、いないことだけ。

田んぼに面した道路に腰を下ろす。
昼間太陽の光で熱せられていた所為か、コンクリートはまだ温かかった。
少年はじっと田んぼに目を凝らした。
ちらっと小さな光が瞬いたように見えた。

『あ、蛍……?』

甦るのは彼女の声。身を乗り出して田んぼを見つめる彼女の姿。

『やっぱり!ほら!!』

掴まれた腕の感触。
蛍が瞬く光よりも、隣にある彼女の横顔の方が気になっていた。
光は、一つ二つと増えていく。
ちらっちらっと、光は遊ぶように舞うように。
あちこちで、互いに囁くかのように瞬いている。

『来年も来ようね』

そう言って微笑した彼女との約束を守るかのように、今年もここにいる自分は女々しいのだろうか。
少年は自嘲気味に笑った。女々しい以外の何ものでもないではないか。
彼女の声が、笑顔が、姿が。
何もかもが忘れられなくて、だから今ここにいる。
振り払いたくても消えない、瞼の裏の彼女。
忘れてしまえれば楽だと思うのに、思い出を消すことは出来なくて。
思い出が少しづつ消えていくことが、まるで罪悪のように思えて。
少年は瞼を閉じる。
待っていても彼女は来ない。
ずっとここにいたとしても彼女は来ない。
分かっている。
分かっているけれど……。
もう少し。もう少しだけ。

夏が過ぎたらきっと。
蛍が飛ばなくなったらきっと。

祈るようにそう思った。


<了>





暑中お見舞い申し上げますm(__)m
というわけで、毎日暑い日々が続いておりますが皆様いかがお過ごしでございましょうか。あまりの暑さに櫻木はへばり気味でございます。東北だってのになんてえ暑さなんだ!!
この作品は、好きなアーティストの蛍をテーマにした曲を聞いているうちに、書きたくなり、書いたものです。
一曲だけではなく、何曲か聴いていたのですが。メレンゲの「輝く蛍の輪」という曲をメインに聞いていました。あとはSCUDELIA ELECTROとスピッツを。なので、作品の設定は曲からイメージしております。
蛍を見に友人と歩いた田んぼ道がとても印象に残っていて。私にはこの話のような経験はございませんが。
でも、田んぼに瞬く蛍の光というのは本当に綺麗で。とても幻想的な光景だったのを覚えています。
少しでもその時の情景が伝わったらいいなあ、と思ったのですが如何なものでしょうか。
ああ、またみんなで蛍を見に行きたいなあ……。

素材:「Rain Rain」様



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