くるっとまわってにゃんこのめ
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我輩は猫である。名前はまだない。 ……なんて名作の真似事をしてみたが、おれには名前がある。 タケルという。 この家に飼われ始めて、かれこれもう8年は経つだろうか。随分長いこといるもんである。 飼い主連中からは散々「老いぼれ」「タヌキ」「デブ」などと文句を言われているが、大人なおれはそれに反抗することはない。 言いたいやつには言わせておけばいいのだ。 大人なおれは、ちょいとやつらの足を爪で引っ掻いたり、やつらの部屋の扉で爪を研いだりするくらいだ。 飼い主の四人兄弟のうち、一番上の晴(ハル)さんだけは、おれに何も言わない。 おれは晴さんが大好きだ。 晴さんは優しい。 おれの目に付いた目脂や歯に挟まった餌の食べかすなんかをいつも綺麗にしてくれる。 晴さんは優しい。 おれを膝の上に乗せると丁寧に背中や腹を撫でてくれる。 晴さんは優しい。 おれの大好きな餌を覚えていてくれて、いつもその餌を出してくれる。お気に入りはドライフードのマグロ味だ。 二番目の那津(ナツ)なんかは、「いい加減もう年なんだから、柔らかい餌にしなよ」などというが、おれにはこの噛み応えがたまらないのだからほおっておいてほしい。 大体、那津はおれが寝ていると「邪魔」と言って足蹴にしてくるし、ちょいと縄張り争いで傷でもつくってくれば「何よその怪我!!」と煩いったらありゃしない。 おれがどこの誰と戦って怪我をしようが、そいつはおれの勝手なんだ。放っておいて欲しい。 とにかく、何事にも那津は騒ぎすぎるのだ。 三番目の亜樹(アキ)はなかなかおれと遊ぼうとはしない。 そういう年頃ってやつなんだろうか。 おれが足元にすりよっても、ちらっとこちらを見るだけでふいっとどこかに行ってしまう。 おれよりも猫らしいやつかもしれない。 四番目の芙佑(フユ)は、いつもおれが晴さんの膝の上に乗ろうとするのを阻む。 ある意味、芙佑の手を逃れて晴さんの膝の上にいくことは、縄張り争いよりも過酷である。 「ターケールーニャーっっ!!」などと訳の分からないことを言いながら後ろから抱きつかれるのだ。 「タケにゃん、タケぴょ、たけぷん、たけたけ、たけお」などと色々な名前で呼ぶのも芙佑だ。 散々いろんな名前で呼んだ挙句に腹や背中の毛をわしわしと掻き回され、抱き上げられ、宙でぶらさげられ、勝手に足や手を動かされた後にやっとのことで解放される。 その頃にはもうどうにでもしてくれ状態である。 だらーんとやる気を失くしてごろごろと転がっているおれを見つけるのは大抵那津で、「やだ、何だらだらしてんの。もう年なんじゃないの?」などと言ってくる。 煩い、これは芙佑が!!と言えたらどんなにいいだろうか。そうなってしまったの時のおれには、何を言う気力も残ってはいないのだ。 今日も今日とておれは芙佑に捕まってしまった。 うわー晴さん助けてくれーと思っても、晴さんは今日は出かけていていない。嗚呼。 好きなだけ散々芙佑に弄ばれたおれが廊下でぐったりしていると、那津様のお出ましである。疲れて帰ってきたのか、「邪魔」の一言と共に足でひっくり返されてしまった。 ええい。もういっそ腹を見せて倒れてようではないか! そうして倒れているところに、二階から亜樹が降りてきた。おれと目が合うと、慌ててもう一度階段を駆け登る。 次に降りてきた時に手にしていたのはケータイ。 「動くなよ」などと呟きながら、ケータイをおれに向ける。パシャっという音と共に眩しい光がおれの顔を直撃した。なんだなんだと慌てて飛び起きる。 亜樹はといえば、ケータイの画面を見ながらなぜか笑みを浮かべている。「ほらータケー可愛く写ってるぞ」などと普段見せない笑顔で言われたものだから、おれは何だか悪い気がしなかった。 亜樹のこんな笑顔が見られるなら、何回でもパシャっをしてくれていいかもしれない。光にはびっくりしたが。 がちゃりと玄関が開く音が聞こえた。 きっと晴さんだ! おれは急いで玄関へと駆けて行った。 晴さんあのねあのね、亜樹がね!! じゃれつくおれを抱き上げながら、晴さんは居間へと向かう。 手には何やら包みを抱えている。 「やだ晴兄、背広汚れちゃうじゃない」 「お帰り〜。何々?お土産?」 「晴兄、タケの写真待ち受けにする?」 那津・芙佑・亜樹の順で一気に喋りだす。 晴さんは、みんなににっこりと微笑むと、 「ただいま。今日十五夜だろ?団子買ってきたからみんなで食べよう」 そう言って包みを上げて見せた。 「今日お月様なんて出てたっけ?」 「私が帰ってきた時は見えなかったけど」 「月見?めんどくせー」 「今は綺麗に満月が見えてたけど?亜樹、そんなこと言うなよ。たまには、さ」 芙佑はうきうきとしながら、亜樹はしぶしぶ。那津は台所に皿を取りに行き、晴さんはおれの前に餌箱を置いた。 餌の時間はもう終わったのに、と晴さんを見つめると、 「お前はまたたびね」 そう言って餌箱にまたたびを入れてくれた。 ああ、この匂い、たまらない……。 縁側に並んで腰を下ろし、月を見上げる。 晴さんたちは美味しそうに団子を食べている。 またたびの匂いに酔ってしまったおれは、いつしか晴さんの膝の上。 ここはいつも気持ちが良くて、特等席だ。 「何、まただらけてんの?またたび効きすぎじゃない?」 「たけにゃん可愛いーーーvv」 「……写真、撮る?」 そんな声を聞きながら、ゆらゆら揺れるお月様を見上げた。 <了>
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